革新的な心血管系治療:AHA21で発表された薬物療法のブレイクスルー

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本記事は英文ブログを日本語に翻訳再編集(一部追記を含む)したものです。本記事の正式言語は英語であり、その内容・解釈については英語が優先します。

 

クラリベイトの専門家が、2021 American Heart Association Scientific Sessions (AHA21) におけるホットトピックについて、患者治療に与える影響に関するインサイトを交えて紹介します。

 

ヘルスケア市場に大きな影響を与えると予想される治療法をレビューする「Drugs to Watch™」シリーズの一環として、クラリベイトの専門家がAHA21 Scientific Sessionsでのトップピックを選びました。このバーチャル会議では、3,600以上の演題から研究結果が発表されました。以下の記事では、5つの注目演題の分析と、医療経営者にとっての重要なヒントをご紹介します。

 

 

1. EMPEROR-Preserved臨床試験において、empagliflozinが50%以上のHFpEFに有効1

 

駆出率低下型心不全(HFrEF)に対して多くの薬剤が承認されていますが、HFpEF患者における有用性の実証は、医薬品開発者にとって困難であることが明らかになっています。

 

背景:2021年8月、ベーリンガーインゲルハイムとイーライリリーは、EMPEROR-Preserved臨床試験において、HFpEF(左室駆出率40%以上)の成人患者の予後に21%(p<0.001)の有意な改善を示した最初の治療薬としてempagliflozin(Jardiance)を発表しました。

AHA21でのアップデート:EMPEROR-Preserved試験のサブ解析において、empagliflozinはLVEFが50%以上維持されている患者(試験著者らによれば多くの臨床医が「真のHFpEF」と考えている)において有効性を示し、主要エンドポイント(CV死または心不全による入院[HHF]の複合)のリスクを17%低減しました(P = 0.0244)。この所見は、HFによる入院の最初のイベント発生までの時間が22%短縮されたことに起因しています(P = 0.0128)。

今後の展望:これらのデータは、empagliflozinが50%以上のHFpEFの患者にベネフィットを提供できることを示し、処方者にempagliflozinが真のHFpEF患者を含むHFpEF患者に対する強力な治療オプションであることを確信させるものです。これらのデータの影響は、EMPEROR-Preservedの結果が他のSGLT-2阻害剤にも適用可能であると、開業医がどれだけ広く理解するかによって決まると考えられています。

 

2. EMPULSEは、入院中の心不全患者におけるempagliflozinの有用性を実証2

 

急性期で効果が確認された後、心不全の治療パラダイムにおけるempagliflozinの位置付けはどのように変化し得るのでしょうか?

 

背景:過去5年間、私たちはDAPA-HFやEMPEROR-Preserved、EMPEROR-ReducedなどのSGLT-2阻害剤に関する試験により慢性心不全治療の進歩を目の当たりにしてきました。レキシコンのsotagliflozinのSOLOIST試験では、心不全で入院した当初の2型糖尿病患者に有効であることが示されました。ベーリンガーインゲルハイムとイーライリリーのJardiance(empagliflozin)のEMPULSE試験は、糖尿病の状態や駆出率の状態にかかわらず、入院中の急性心不全患者を対象に実施した初めてのSGLT-2阻害剤の試験です。

AHA21でのアップデート:90日間という比較的短い時間枠の中で、empagliflozinを投与した場合、プラセボと比較して36%(95% CI: 1.09 to 1.68; P = 0.0054) 高い確率で臨床効果を実感することができたといいます。また、empagliflozin投与群では、死亡や心不全のイベントも少なかったと報告されています。 EMPULSEは、SGLT-2阻害剤が急性期の心不全患者における有害事象のリスクを低減するという一連のエビデンスを追加するものです。EMPULSEは、さらに踏み込んで、SGLT-2阻害剤を病院内で使用し、疾患管理の早い段階で治療開始のタイムフレームをシフトすべきことを具体的に示したものでもあります。

今後の展望:2型糖尿病に関係なく登録されたことは、SGLT-2阻害剤が本来開発された2型糖尿病治療薬に加え、心血管治療薬として認識されるための新たな一歩となります。SGLT-2阻害薬の治療開始が病院という環境に位置づけられることで、心不全患者の長期管理においてempagliflozinやおそらく他のSGLT-2阻害薬が使用される程度が向上すると思われます。

 

3. 間葉系前駆細胞の標的経心内投与により、全身性炎症を有する高リスクの慢性心不全患者における不可逆的な心血管系疾患の発症および死亡のリスクが減少3

 

メソブラストのrexlemestrocel-L(Revascor)は、心不全管理に意味のある変化をもたらす最初の幹細胞療法となるのでしょうか?

 

背景:2020年12月、メソブラストは、進行した慢性心不全患者を対象とした同種細胞療法rexlemestrocel-Lの第III相DREAM-HF試験のトップライン結果を発表しました。熱不全による入院を減らすという主要評価項目は満たされなかったものの、事前に設定したエンドポイントである心臓死の有意な減少が確認されました。

AHA21でのアップデート:この新しい解析では、rexlemestrocel-Lの単回注入は、537人の患者すべてにおいて、非致死性MIまたは非致死性脳卒中を含む不可逆的病状のリスクの65%減少と関連していました(HR, 0.346; P = 0.001 )。全身性炎症(ベースラインの血漿中高感度CRPが2mg/L以上)を有する301人の患者では、リスクが79%減少しました(HR, 0.206; 95% CI, 0.070, 0.611; P = 0.004 )。これらの効果はNYHAクラスIIとIIIの患者で報告されましたが、全身性の炎症がない患者さんでは認められませんでした。さらに、炎症を有するNYHAクラスII患者において、Rexlemestrocel-LによりCV死までの時間が80%有意に短縮されました(HR, 0.204; 95% CI, 0.068, 0.618; P = 0.005 )。

今後の展望:近年の治療法の進歩にもかかわらず、心不全の死亡率は依然として高い水準にあります。心不全における幹細胞治療としてはこれまでで最大規模の本試験において、HFrEFおよび炎症を有する患者はrexlemestrocel-Lの恩恵を受けることができました。これらの有望な知見は、rexlemestrocel-Lが心不全治療のパラダイムにおいて明確な位置を占める可能性があることを示唆しています。

 

4. 経口PCSK9阻害剤MK-0616の初のヒト試験データにより、スタチン系薬剤に加えLDL-コレステロールに有効であることが判明4

 

PCSK9を標的とした薬剤は有効ではありますが、高価な注射剤です。経口投与可能な競合品は、高コレステロール血症および動脈硬化性心疾患(ASCVD)リスク低減のための重要な新薬となる可能性があります。

 

背景:proprotein convertase subtilisin/kexin type 9(PCSK9)を標的とすることは、スタチンによる一次治療に加え、低密度リポタンパク質(LDL)コレステロールの低下およびASCVDリスクの低減という点で重要な進歩をもたらしてきました。しかし、PCSK9を標的とした現在利用可能な治療法(および最新の治療法)は、すべて注射による投与が必要であり、このことは、治療法の利用、導入、およびコンプライアンスの障壁となる可能性があります。

AHA21でのアップデート:メルクは、PCSK9を標的とする経口生物学的利用可能な環状ペプチドであるMK-0616の最初のヒトでのデータを発表しました。LDLコレステロール値が高めの被験者40名(うち85%は中強度または高強度のスタチン投与中)を対象としたこの第I相反復投与試験において、MK-0616は14日後にLDLコレステロール値を少なくとも50%低下させることが確認されました。この有効性の程度は、PCSK9を標的とする承認済み注射剤および実験的注射剤で観察された範囲内です。

今後の展望:特に高コレステロール血症のように生涯にわたる治療が必要な疾患では、多くの人が注射剤よりも錠剤の服用を希望しています。経口投与の脂質管理薬は数多く市販されていますが、多くの患者は依然としてASCVDイベントの高いリスクを抱えています。このような患者には、エスペリオン・セラピューティクス社の経口剤であるNexletol(ベムペド酸)およびNexlizet(ベムペド酸+エゼチミブ)、あるいはPCSK9を標的とした注射剤であるアムジェンのRepatha(evolocumab)、サノフィ/リジェネロンのPraluent (alirocumab)、欧州で最近発売されたノバルティス社の隔日投与のLeqvio (inclisiran)が処方されています。治療コストとコンプライアンスは、効果的な長期的疾病管理を継続する上で重要な要素であり、強力な経口剤の新しい選択肢は、注射剤の競合品よりも広く受け入れられ、特にプライマリーケア医の間で急速に市場に浸透していく可能性があります。

 

5. 新規の経口FXIa阻害剤であるmilvexianは、静脈血栓塞栓症(VTE)の予防に有望な結果を示す5

 

Milvexianは、膝関節形成術後に、現在のSoCであるエノキサパリン皮下投与と比較して、優れた有効性とそれに見合う安全性を示しました。また、ミルベシアンは経口投与が可能であるという利点も有しています。

 

背景:ヤンセンとブリストル・マイヤーズ スクイブは、ファーストインクラスの経口FXIa阻害剤となる可能性のあるmilvexianを開発しています。FXIaはトロンビン生成を増幅し、止血に影響を与えることから、FXIを阻害することで血栓塞栓症に効果が期待されます。

AHA21でのアップデート:膝関節置換術(TKR)後の患者を対象に、milvexianを25~400 mgの範囲で1日1回投与した第II相試験(AXIOMATIC-TKR)のデータが評価されました。1日100 mg以上の投与により、標準治療薬であるenoxaparinと比較してVTE発生率が大幅に低下し(それぞれ7~11% vs 21%)、出血イベントの増加は認められませんでした。

今後の展望:現在の抗凝固薬(enoxaparinなどの旧来の注射剤、rivaroxabanなどの新型経口剤)は、心房細動患者におけるVTE予防、VTE治療、脳卒中予防など様々な場面で使用されています。その重要性にもかかわらず、その有効性は改善することが可能であり、また、重篤な出血事象のリスクが増加する可能性があります。安全性と有効性のバランスをとることは抗凝固薬にとって重要であり,より優れたリスクベネフィットプロファイルを持つ有効な新薬が,臨床家に迅速かつ広く受け入れられるようになる可能性があります。

 

寄稿者
この記事を執筆した循環器、代謝、腎臓、血液グループのクラリベイト専門家は、Yogesh Shelke M.B.A. (Pharm.), Dwaipayan Chatterjee, M.Pharm., Saptaswa Sen, Ph.D., Gideon Heap, M.Sc., David Rees, Ph.D., Tim Blackstock, M.B. Ch.B. and Graeme Green, Ph.D., M.Scです。

 

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References:

  1. Anker SD, et al. EMPEROR-Preserved: Empagliflozin in Heart Failure with a Preserved Ejection Fraction ≥50% – Results from the EMPEROR-Preserved Clinical Trial. Circulation 2021; 144(suppl1): LBS.05
  2. EMPULSE: Efficacy and Safety of Empagliflozin in Hospitalized Heart Failure Patients: Main Results from the EMPULSE Trial. Circulation 2021; 144(suppl1):05
  3. Perin EC, et al. Randomized Trial of Targeted Transendocardial Delivery of Mesenchymal Precursor Cells in High-Risk Chronic Heart Failure Patients With Reduced Ejection Fraction. Circulation 2021; 144(suppl1): LBS.05
  4. Johns DG, et al. The Clinical Safety, Pharmacokinetics, and LDL-Cholesterol Lowering Efficacy of MK-0616, an Oral PCSK9 Inhibitor. Circulation 2021; 144(suppl1): 06
  5. AXIOMATIC-TKR: Milvexian for Prevention of Venous Thromboembolism after Elective Knee Arthroplasty: The AXIOMATIC-TKR Study. Circulation 2021; 144(suppl1):07